ペットと密輸


密輸される保護動物 ペットブームの影に(8月24日 クロ現)


●ワシントン条約

145カ国が加盟するワシントン条約(正式名称は“絶滅の恐れのある野生の動植物の種の国際取引に関する条約。種の保存法”)。日本は80年に加盟。3つのグレードに分けて動物たちを保護する。その数はおよそ3.5万種にものぼる。

第一段階は輸出入、原産地での捕獲禁止。このグレードの動物は極めて少なく、ジャイアントパンダ、ゴリラ、オランウータン、トキなど数種類しかいない。

第二段階は輸出頭数を厳しく制限したもの。つまり、合法的な輸出入がなされ、ペットブームにわく日本において人気を集めるのは、希少価値のあるこの第二段階に当てはまる動物たち。いわゆる「エキゾチックアニマル」ということになる。

第三段階は「保護に務める」というだけの比較的軽い制限のもの。


●ペットブーム

空の玄関成田空港。

毎日何千頭、何千匹というワシントン条約に絡んだ動物たちが輸入される。人気が集まるのは、先程も述べたように制限があり、希少価値のある第二段階に当てはまる動物たち。

ちなみに、日本はアメリカと並ぶ世界有数のペット市場。


世界で取り引きされたペット用動物の数(90〜94年)

サル15万頭 カメ21万匹 カメレオン28万匹 オウム182万羽 カエル2万匹

この何分の一かが日本に輸入されているということになる。

この日は、南米からシロヘビという、その名の通りの白いヘビが木箱から取り出され、税関でチェックを受けていた。税関…といっても、動物の場合は、税関職員が3.5万頭ものワシントン条約動物を見抜けるはずもあろうはずがなく、「あ、これは違うヘビですよ」なんて立会人がごまかせばすんなり通ってしまう場合が多いよう。

最近、大阪のペットショップがワシントン条約第一段階で捕獲さえ禁止となっているオランウータンを密輸して摘発されたが、オランウータンの赤ん坊を「ただのサルですよ」といっただけで通ったらしい。インチキなものだ。

話をヘビに戻す。400匹輸入されたこのシロヘビ。一匹100万円の値が付いても瞬く間に売れてしまうそうだから、日本は本当に不況なのか?と思ってしまう。金はあるところにはやっぱりあるのだ。

日本は今、第二段階で制限された「エキゾチックアニマル」のペットブームらしい。南米や東南アジアのジャングルから連れてこられるカメやカエルやサルやネコなんかの動物を、詳しい飼い方も分からずに「カワイイ、カワイイ」と飼っておく。

まったく、もともとが野生の動物なんだから、家の中に監禁したところですぐに死んでしまうだろうに。まず現地での乱獲で死んでいるだろうし、飛行機や船での流通過程で、不幸にも真っ暗闇の中で死んでいっているだろうし、大きくなって「自然に帰してやろう」なんて思ってみても、もはや帰れるわけでもないのだ。

危険極まりないワニや大蛇を捨てる、狂気じみた無責任なバカもたまにいるから開いた口もふさがらない。

「いやあ、いるだけで心が和むじゃないですか」「だって、鳴かないし、キレイだし、カワイイじゃないですか。手もかかりませんよ」

なんのためらいもなくそういってのける人々。そんなものは人間の生臭いエゴでしかなく、そんな身勝手な連中のせいで地球から一つ一つ動植物がその種を絶っているのである。

同じペットとして、玄関先につながれている犬なんて哀れなものだ。散歩に行けない欲求不満なのかはよく分からないが、通るたびに吠えまくる。1年のうち、11.5ヶ月ほど鎖につながれっぱなし、そんな寝たきりの犬なんてどこにでもいるんじゃないだろうか。

いらなくなれば保健所で焼却処分。確かに、人間と動物の命は平等じゃないけど、そこには命への尊厳なんてひとかけらもない。いいねえ、人間は薄情で。この何でも使ってポイ捨て的エゴイズムが人間を人間たらしめるものなんだろう。

稀少動物の専門誌、雑誌も6誌計30万部が創刊された。見たことはないが読者の投稿写真が隙間無く載せられている。カメレオン用紫外線ライト。これはジャングルでの同条件の太陽の光をカメレオンに供給しようというもの。その動物の栄養に適した専用のエサ。ペットだけではなく、それに付随するペット市場もかなりのものになる。

当たり前のようだが、希少価値を持つ動物は年々増加している。減れば減るほどその動物に価値が出てくる。今では100万を優に越す動物も珍しくないとのこと。


●ウイルスの脅威

野生動物のペット化。一番怖いのはウイルス感染。

大阪府豊中市に動物病院を開業している、エチオピア出身のウエルク・テコラ医師。ある日、40代の主婦が一匹の猿を連れてやってきた。「ええと、飼育方法しらんのやけど、教えてもらえますぅ?」

それは東南アジア産のカニクイザル。普通、動物をおかすウイルスが人間に感染して発病することはあまりないが、サルの場合は人間に近い分感染しやすい。現在確認されているだけでも14種。エイズもサルから広がったメジャーなものだし、エボラなんて全身から血液を吹き出して、90%が死んでしまうという恐ろしいものが流行ったのは記憶に新しい。

このカニクイザルはBウイルスなるものを持っている。ひとたび感染すれば、中枢神経がおかされ、致死率は70%。通常の接触では感染することはないが、もし噛みつかれるなどしてサルの体液が人間の体内に入った場合は極めてブルルな状態。

「これは危ないな」

直感的にそう思ったテコラ医師は、さっそくサルの血液を採取して専門機関に検査を依頼。

ビンゴ!予想通りサルはBウイルスを持っていた。動物園や専門機関などでは、サルの扱いには慎重だが、「サルは危ない」という事実を、一般人はどのように受け止めていることやら。

年間4千頭の様々なサルが輸入される日本。中には密輸もあるだろうが、その4分の1が一般家庭にペットとして入っていくものだ。厚生省は、これら全てのサルに、エボラウイルスとメーブルブルウイルスという2種の危険なウイルスに限って検疫を義務づけてはいる。しかし、Bウイルスなどは

「感染しようがこちらの知ったこっちゃありません。基本的に自己責任です。自分で情報を仕入れて自分の身は自分で守って下さい」

とインタビューに答えている。いいねぇ、お役人ぽくて。(言葉はこのままじゃないよ)


●日米の格差

同じペット大国の日本とアメリカでも、サルへの扱いは大きな格差がある。アメリカでは、基本的に研究用以外のサルの輸入は全面的に禁止されている。

2年前、ある研究員がサルから目に尿を引っかけられ、六週間後にウイルス性脳炎で死亡した。

エボラも突然出てきたように、サルにはまだまだ未知のウイルスが存在するかも知れない。輸入ペットから、人類にはまだどうしようもないウイルスが全米中に広まってしまってはもはや手の施しようがない。それこそ、ダスティ=ホフマン主演の「アウトブレイク」のようなことが現実に起こってしまいかねない。

ここらへんに、日米のウイルスに対する研究差がはっきりと表れているのだろう。アメリカでは、研究されればされるほど、「サルは極めて危ない」という結論に達したのかもしれない。

日本は人から人へ感染するウイルスへの対応は十分だが、人畜共有病、動物から人へとうつるウイルスに関しての対応がまだまだとのこと。

ペットを飼おうと、ウイルスに感染して死のうと、それはその人の勝手だが、やはり飼うだけではなく、きちんとした情報を入手してから飼わなければならない。また、ペットショップや雑誌なども、ペットを飼う楽しさばかりを強調せずに、ウイルスなどの情報をきちんと提供することも大切になってくる。

「ペットブームの影には密輸の横行と、ウイルス感染の危険性があるんですね。野生動物というのは人類共通の財産なのですが、個人の都合でそれを滅ぼしてしまうのもどうかと思いますよ。」

10年ほど前、「脅威の小宇宙・人体」で、まだポマードでがちがちだったタモリと組んで出演していた、目の垂れた小出五郎さん。あの人は好きだなぁ。今ではすっかり髪も寂しくなり、退職前の翁(おきな)になってしまったのだった。

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